にのだん社会保険労務士事務所

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にのだん社会保険労務士事務所だより「たすき」令和4年7月号(No.32)

【出産育児一時金の増額】

 先日、総理大臣の「私の判断で出産育児一時金を大幅に増額する」と発言したニュースを聞きながら、3年余りとはいえ、かつて勤めていた健康保険組合の将来について心配する気持ちが強くなりました。

 健康保険組合は「保険者」と呼ばれ、単一の会社が運営する場合や同じ事業を行っている会社同士が集まって運営するなどいくつかのパターンがあります。健康保険組合に加入する事業主や被保険者が負担する健康保険料を財源に、被保険者や被扶養者が医療機関を利用した際の自己負担以外の医療費負担(窓口で自己負担が3割なら残り7割が健康保険組合の負担)や保険適用の治療で高額な医療費が発生した場合の自己負担限度額を上回る部分を補う「高額療養費」そして被保険者の出産に伴う休業を補償する「出産手当金」と業務外の傷病に伴う休業を補償する「傷病手当金」、さらに被保険者や被扶養者が出産した際の「出産育児一時金」の支給、その他疾病予防の観点で健康診断の費用やインフルエンザワクチンの接種費用の一部を補助する健康保険組合も存在します。

 ここまでは、被保険者や被扶養者のためだけに健康保険料が使われていますが、健康保険組合には直接関連のない前期高齢者や後期高齢者の医療費を賄うために必要な財源を「前期高齢者納付金」や「後期高齢者支援金」という名称で負担するなど、国民皆保険制度の下支えも健康保険組合が同時に行っている点が厳しい運営状況の原因になっているのかもしれません。

 それで最初の話に戻りますが、現在一人の出産に対して支給される原則42万円の出産育児一時金は健康保険組合が全額負担するかたちとなっています。つまり、出産育児一時金の「大幅に増額する」は保険者の負担が増えるという話に直結してくるのです。私が勤務している時もそうでしたが、当然経営の苦しい健康保険組合に対しては、国からの補助金や健康保険組合連合会からの補助金により運営のフォローがされていましたので、今回の件についても国からの補助が行われるかもしれません。しかし補助金も安易に出るのではなく、健康保険組合には経営の健全化が当然求められますので、最終的に健康保険料のアップに繋がる可能性が高くなります。コロナ禍で一旦は診療控えによる医療費の減少により黒字化になったかもしれませんが、保険料収入の伸び悩みと同時に医療費が再び上昇傾向にある点から、運営が赤字となる健康保険組合が今以上に増えることが想像できます。

 今後、労働力人口が減少していく中で少子化対策と同時に高齢者の医療費に関する負担も打ち出の小槌のごとく健康保険組合に求めるのはかなり無理があるのでないかと感じます。被保険者が負担する大事な健康保険料が財源になる可能性があるからこそ、安易に「私の判断で・・・」はなく、負担が増額することに対して慎重な議論と丁寧な説明が当然必要であると感じます。

【「おとり広告」の線引きは】

 6月のニュースで取り上げられていた大手回転寿司チェーン店での「おとり広告」問題について、ニュースの内容が確かであれば、用意すら出来ていない商品を告知するのは明らかに景品表示法に違反すると感じます。では「おとり広告」の線引き、境目はどこなのか?これについてはかつて勤務していた食品スーパー勤務の経験も踏まえて考えると判断が難しい話になってきます。

 食品スーパーでは商品の鮮度や品質、品揃えの充実さ等がお客さんをお店に呼び込むために必要であるのと同時に、日頃からのお値打ち感を打ち出すために日替わりの目玉品となる「広告の品」でお客さんを集めることが当然必要となります。数量制限が入っている広告の品は、利益がほぼ無いか、原価割れの商品が大半です。そのような商品を目当てにお客さんが集まり、買い物をしていただくことによってお店は最終的に「損して得を取る」ことになります。

 私はスーパーでいろんな部門を経験しましたが、玉子の特売品はお客さんを集める最強のアイテムかもしれません。すべてのスーパーではありませんが、基本的に玉子は売場の奥や比較的場所の分かりにくいところで販売されています。理由は玉子の特売品を目当てに集まるお客さんを売場の中へ引き込み、他の商品の購入も促す目的が大きな理由かと感じます。最近では物価の急上昇の影響もあり、物価の優等生と言われた玉子も原価の上昇により「1パック98円」のような打ち出し方はほとんど見なくなったような気がします。テレビで報道されている諸外国の物価を考えれば、今後日本においても物価は上昇せざるを得ない状況かもしれません。それを考えれば、ひと昔より「広告の品」特に数量限定のような超目玉品はお客さんが来店する理由の大きな要因を作っているのかもしれません。

 それで玉子以外でも私の記憶に残る広告の品は、入社して間もなく日用品を担当した時に殺虫剤が特売品で、完全な原価割れ、かつ季節的にも価格についてもお客さんを店に引き寄せる超目玉品であったにも関わらず、広告の品の価値が分からない新入社員であったため、自分で発注した広告の品が開店後10分で完売する結果になりました。当然、お客さんからは無茶苦茶怒られ「この後入荷しないのか?」「本当に販売していたのか?」「詐欺や」など散々言われる経験をしました。このような品切れが何度も発生した場合、お客さんは「あの店は欲しいものが直ぐに品切れになる。だから早く行かなくては」という先入観を生み出し、開店前からお客さんが行列して並ぶ、そして昼間は閑古鳥のような悪循環の店になってしまうかもしれません

 今回のニュースを聞きながら、お客さんの期待を裏切ったお店が当然悪いと感じながらも、現場の状況を把握しない本部主体の告知や、自分が経験したような予測誤りが原因で発生したのであれば「おとり広告」の線引きはさらに難しくなると感じます。

 会社やお店が一度「おとり広告」の疑いをかけられてしまうとSNSによる口コミの拡散により、致命的な結果を生んでしまうかもしれません。物価や季節による需要、価格帯とのバランスを見据えた販売計画を的確にとらえる「広告の品」の慎重な扱いが最終的には損して大きく得を取り、結果売上や利益さらには評判を確実に生み出すのかもしれません。

~最後までお読みいただきありがとうございました~